瀋陽市和平区六緯路の静かなコーヒー小路に、「和俊おじさんのケーキ」という和風スイーツ店がある。看板に「日本福岡の家庭の味」と書かれた、素朴で温かみのある佇まいが、思わずドアを開けてみたくなる気持ちにさせてくれる。
店主は、90年代生まれの若者、ケイトさん。お話を伺うと、この店はもともと、日本福岡出身の和菓子職人である師匠が十数年にわたって営んでいたもので、店名の「和俊」は師匠の名前から取ったのだそうだ。師匠が帰国した後、ケイトさんはこの「甘い」事業を受け継ぎ、国境を越えた信頼と託された思いも引き継いだ。
店は広くはないが、清潔で温かい雰囲気に包まれている。ショーケースには、ロールケーキ、ティラミス、あんパン、チーズケーキ、シュークリームなど、様々な定番の和風スイーツが並ぶ。中でも一番人気はプリン。十数年間、そのレシピと材料の比率は一切変わることなく、最初の純粋で優しい味わいを守り続けている。
コロナ後、家族を懐かしんだ師匠は帰国を決意した。その際、ケイトさんに二つのことを強く頼んだという。一つは、レシピと材料を絶対に変えないこと。もう一つは、着色料を一切使わず、素材そのものの色を活かすことだった。アンカー生クリームなどの材料価格が十年前に比べて倍以上になっているにもかかわらず、ケイトさんは師匠の言葉を胸に、同じ基準、同じ心構えで一つ一つのスイーツを作り続けている。
ケイトさんは、師匠から学んだのは技術だけでなく、食材に対する職人としてのこだわりと誠実さだったと語る。だからこそ、日本の師匠の時代から中国人の弟子であるケイトさんに代わった今でも、この小さな店には多くの常連客が通い続け、中には客から友人になった人も少なくない。
伝統を守る一方で、ケイトさんは少しずつ自身のアイデアも取り入れている。包装を改良し、店内のレイアウトを調整し、地元の客の好みに合わせた新商品も開発した。彼が店を引き継いでから、店は中国の口碑サイト「大衆点評」で悪評ゼロの記録を保ち続けている。味は記憶であり、言葉でもある。ケイトさんは、スイーツを通して、より多くの人の味覚と心をつなげたいと考えている。
派手な出来事があるわけではない。あるのは、日常の中でのたゆまない努力だけ。この何気ない小さな店では、一つのスイーツを継承する物語が、すなわち理解と尊重にまつわる物語が、静かに、しかし確かに、ここを訪れる一人ひとりの心を温めている。